平日の午後、
大通り側から歩き始め札幌駅へと向かう。
早足で僕を追い越していくサラリーマン、
ニコニコと談笑しながら通り過ぎる若者たち、
大きな荷物を抱えて上を見上げ
スマホを確認し歩く方向を確かめる
異国から来た観光客、
眉間にしわを寄せながら
何やらぶつぶつと独り言を言っている叔母さま…。
ありとあらゆる人が行き交う
札幌駅前通りのもう一つの顔が地下歩行空間。
そんな人々の流れに翻弄されないように
未だ工事が終わらないコンコースへと
たどり着くその直前に
突如僕の耳に飛び込んで来たのが
雑音混じりのマイクを通した
元気のいい青年の声でした。
そう、地下歩行空間には
オーディションを勝ち抜きライセンスを得た
大道芸人だけがパフォーマンスをすることが
許されたスペースがあり、
歩く人々の気忙しい心と足を止め、
ひと時の癒しの時間を
提供してくれているのです。
キャップのツバを後ろにまわし
ヘッドセットマイクを装着して
小気味のいい口調で観客を煽る青年は
美しい水晶玉を
空中に浮かせているかのように見せ、
人々の足を止めていました。
ほんの少しだけ覗くつもりが
彼の軽妙なトークと
程良い焦らしから繰り出す【技】に
思わず魅入ってしまい
じっくりと足を止める事になってしまう始末。
僕を魅了した彼の【技】は
水晶玉からマジックへと変わり
軽快なテンポでディアブロ(中国駒)のパフォーマンスに移ったとたん、
彼は突然、キラキラと光るディアブロを
自分の目の前に置き膝をついて語り出しました。
先程までの軽妙で、
見ている人をにこやかにするトークでは無く、
真剣に、そしてそれなりのスピードで…
「僕はこのディアブロが大好きで大好きで毎日勉強もしないで、家の近くの公園や道端で練習してきました…」
その時に道行く大人たちが彼にかけた言葉が
「そんな事して食っていけるわけがないだろ。」
「ちゃんと学校に行って普通に勉強しろよ。」
「役に立たないことなんかしててどうするんだ。」と罵られていたと言うのです。
そして、「辛く悔しい毎日だったけど大好きで大好きでいつもいつもディアブロの練習をして今ではこうやって皆様の前で【技】を表現できる事が嬉しい」のだと・・・。
僕は思うのです。
「自分の人生を自分で決める」
と言う事を決めるのも
「自分の人生はもう決まっている」
と言う事を決めるのも
自分自身で決める事なのです。
誰に何を言われようと
誰に何も言われなかろうと
自分ぐらいは自分をちゃんと信じる。
それが唯一自信だと。
その信じるという素晴らしさを
全身で表現している彼は
目をキラキラとさせ
最後の大技を一発で決め!
そして、大道芸人らしく、
帽子へのギャラの話もお上手に決め♪
とても清々しい顔をして、
深く深く頭を下げました。
彼がまだ修行時代に
心無い言葉をかけたであろう大人たちと
同じような年齢の大人たちを
文字通り「手玉」に取り、
しっかりと魅了し【感動を与える】と言う名の
「痛快なリベンジ」を果たした彼は
パフォーマンスが終わり
近づく僕に素晴らしい笑顔でこう言いました。
「最後まで見ていてくださりありがとうございます。本当にありがとうございます。感謝しかありません!」
そして大道芸人にとって
大切な大切な帽子をクイッと・・・♪
素敵な【技】に
魅了され
癒され
絆され
心をガシッと掴まれ
思い切り感動し・・・
しっかりと手玉に取られたのは
結局、僕でした。
やりおるな!時雨!またね!時雨!
#時雨
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